山口県上関町・八幡宮所有地の上関原発建設用地への
財産処分承認申請書に対する承認の可否


 本件の原子力発電所建設問題については、二十数年間に亙り議論されてきた経過があり、当該地域住民のみならず多くの人々に様々な影響を及ぼしてきた。

 本来ならば、国及び県などの行政及び電力事業主においては、地域の人々をはじめ、原子力発電に危惧されてゐる人々に対して理解を求め、人々が深刻な対立にならないやう全力を尽くすべきであって、今回のやうに地域の人々の平安と繁栄を祈る神社が、対立の矢面となったことは、まことに遺憾である。

 日本の風土は、寄港は比較的温暖であるが、平地は狭小で、山地は険しく、河川は急流が多く、そのため、しばしば豪雨や台風により水害などに見舞はれてきた。我々の祖先は、それらの自然災害に対して、更によきより生活環境を築くために、古来より神々への畏敬の念を根底においた上で治山・治水・荒地開拓・海浜埋め立てなど自然に対して様々な改造を行ひ、豊かな社会を形成してきた。そしてそれは、同時に自然の恩恵に感謝しつつ、人と自然とが相互に影響し合ひ、共生してきた歴史でもある。

 そのやうな人々の営みの中で、神社神道は、自然環境の保護育成に格別熱心に取り組み(注1)、国家や地域社会の平安と繁栄とを祈ってきたことは言ふまでもない。

 今回提出された八幡宮の財産処分承認申請書については、右(上)のことも踏まへ地域社会の調和と安定を祈る氏神信仰を念頭に総合的、且つ時間をかけて慎重に検討してきた。

一、承認の可否判断

(1) 本件は、地元の声を総合的に踏まへて、神社規則及び宗教法人法に則り正当な手続きを経て申請されたものであり、違法性は認められない。

(2) 処分地は、境内地でなく、離れた場所にある八幡宮所有の山林であり、神社の尊厳維持上の影響は少ないと思量される。

(3) 処分代金の使途が明確且つ健全であり、財産管理の方法も透明、性格になされることが窺はれる。(注2)

(4) 現在、原子力発電所の必要性や安全性、そして環境破壊について懸念のあることは承知するが、脆弱なエネルギー供給構造を有するわが国において、その役割は大きく、地球温暖化対策としても一酸化炭素の排出量をできる限り抑制しつつ、国民生活に必要な量の電力を安定的に供給するといふ観点から、基幹電力を選択する場合、有力且つ重要な選択肢であるとの原子力委員会の見解については、現時点において否定するものでない。

二、結論

 本件は、万已を得ない事情があると判断し、承認とする。
 但し国をはじめとする行政及び原子力委員会・原子力安全委員会並びに電力事業主は、環境保全と綿密な点検による事故防止に最善を尽くされたい。特に上関町は、対立解消につとめ平穏な住民生活となるやう尽力されたい。(注3)
 尚、本件の承認は、他の神社の財産処分にかかる全ての案件に影響を及ぼすものでなく、あくまでも個別に判断したことを申し添える。(注4)

平成十六年八月二十日
神社本庁



注1:事実、山口県内でも、神社地に携帯電話用の鉄塔建設が計画され、その申請の2〜3日後には神社本庁から承認不可の決定が下りたり、県道拡幅工事の計画に神社の敷地がかかっていた際、承認が下りず、その土地を避けるためにトンネルを掘らざるを得なくなったということがあったそうです。

注2:上関原発計画の環境影響調査の際、神社地への補償金が特定個人の口座に振り込まれ、その使途・明細は四代地区住民にも明らかにされていない、ということがあるようですが、今回はそうではないということでしょうか。

注3:今回の決定の時期・内容が、地元住民の対立を助長する可能性があるということを棚に上げたような文章ですが、ある意味、他に責任を押し付けているとも取れなくもないこの文章とよく似た内容の文章は以前にもみられています。例えば、県知事意見など。

注4:要するに、他のケースとは無関係、今回の件は原発がらみであることから特別な決定である、ということなのでしょう。

(以上、太字及び注釈は当サイト管理人による物です)


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